まずはアメフトにおける得点システムについてのおさらい。
フィールドゴール(以下FG):3点
セーフティ:2点
タッチダウン(以下TD):6点+α
となっているのは、作中でも説明されていました。
タッチダウンの際の+αの部分に関しては、
ボーナスとしての1プレイであるトライ・フォー・ポイント
(以下TFP)での得点が加算されます。
TFPでは、FGもしくはTDが狙えるのですが、
通常プレイ時の3分の1にあたる得点である
TD=2点、FG=1点が加算される事になります。
失敗時の追加点は0点ですので、
TDの時には6~8点が加点される事となります。
(以下、TFPでのFGの事を1ポイント、
TFPでのTDの事を2ポイントと表現します)
ちなみにTFP時の1ポイントの成功率は限りなく100%に近く、
2ポイントの成功率は40%程と言われていますので、
期待値の関係上、2ポイントの方が損となります。
それでは本題「18点差と21点差の違い」について。
アメフトでは得点差を、必要な攻撃回数の差を使って
1ポゼッション差、3ポゼッション差と表現します。
「ポゼッション=ボールの保持」という意味でして、
3ポゼッション差の場合、3回のボール保持……
つまり3回の攻撃権が必要な点差であるという事となります。
上で書いた通り、1回の攻撃権で入る得点に関しては
6~8点ですので、18点差も21点差も
3ポゼッション差である事に違いはありません。
でも少しだけ異なる点があるとすれば、
21点差では「必ず3回のTD」が要求される事に対し、
18点差では「1回はFGでも可」という点差になっています。
計算して確かめてみましょう。
1回の攻撃での最高点は8点ですから、8点を2回続けて奪えば16点。
ここにFGでの3点を加えれば19点となるので、
21点差は追いつけなくても18点差は追いつく事が出来る
という事が理解していただけると思います。
・18点差の場合での、追いかける側の選択肢を考えてみます。
1回目の得点がTDの場合には、
「TD+1ポイント」で7点を奪い11点差とします。
1回目で2ポイントをやらないのには理由があります。
上でも書いた通り2ポイントの成功率は40%、
決して成功率が高いとは言えません。
もし2ポイントに失敗すると6点しか取れずに12点差となります。
こうなると残り2回の得点で共にTDが必要となり、
相手にかかるプレッシャーが段違いに変わってしまいます。
(詳しくは後述)
きちんと7点が奪える事が出来れば、
11点差は8点(TD+2ポイント)と3点(FG)で同点に出来ますので、
「次の得点がFGだったとしても追いつけるんだぞ」、
というプレッシャーを相手に掛ける事が出来ます。
1回目の得点がFGだった場合には、
2回目の得点では7点(TD+1ポイント)にして8点差とし、
1回の攻撃で追いつく事が出来るんだぞ……
と、ディフェンスにプレッシャーをかける事が出来るのです。
・18点差と21点差におけるディフェンスの優位さの違い
FGでも良いという事からは、別のメリットも発生します。
TDというのは、敵陣の一番奥にあるエンドゾーンに
ボールを運び込む得点方法です。
しかしFGは、ボールをキックしてポールの間を通して得点します。
この事から、TDとFGでは進まねばならない距離に
大きな差が出てしまう事となるのです。
FGを蹴る際には、エンドゾーン手前の線(ゴールライン)から
ポールの位置まで10ヤードあるのと、
後ろに7~8ヤード投げてセットする事から、
ゴールラインまでの距離に17~18ヤード足された距離が
挑戦するFGの距離となります。
ムサシは盤戸戦で50ヤードのFGを決めていましたので、
ゴールラインまで33ヤード(敵陣33ヤード)地点まで進めれば
FGに挑戦できる事となります。
しかしそこからTDを奪うためには、
さらに33ヤードも前へと進まなければなりません。
ですので、FGに比べてTDの方が時間がかかる事になるのは
理解していただけると思います。
(ビッグプレイによる一発TDとなれば時間はかかりませんが
それは例外中の例外)
もしTD3回が必要な21点差だと、
ディフェンス側のチームはプリベントディフェンスを使い
「短い距離ならどんどん進んでね。
なんなら得点をあげても構わないよ。
でもたっぷり時間を使ってね。」
という守備をする事が出来ます。
(プリベントディフェンスは
アイシー感想146th・187th・193rd downを参照)
しかし18点差の場合には1回はFGでも良いのですから、
「どんどん進んでね」とは言えなくなります。
失敗する事もあるとは言え、敵陣33ヤードまで進めば
FGに挑戦する事が出来るのですから。
21点差であれば、2回TDを奪われても
3回目のTDを阻止すれば勝てる事となります。
エンドゾーンに近づけば近づくほど使えるフィールドは狭くなり、
オフェンスが不利に、ディフェンスが有利になります。
ですのでTDが必要な状況に追い込む事は
それだけでもディフェンス側が有利になるのです。
結果的に18点差と21点差では、相手ディフェンスにかける
プレッシャーも段違いに違ってきてしまう事となるのです。
・相手に得点を取られた事を考える
21点差の場合、TDで7点を取られると28点差、
これは4ポゼッション差となります。
FGで3点を取られた場合には24点差、
これはぎりぎり3ポゼッション差ですが、
2ポイントの成功率が40%である事を考えると、
実質的には4ポゼッション差と言える得点差です。
(16点差を2ポイント2回で追いついた試合は見た事ありますが、
24点差を2ポイント3回で追いついた試合は
選択肢として選ばないという理由もあるでしょうけど
見た事がありません。
単純に計算しても0.4×0.4×0.4=0.064と
6.4%しか可能性がありません)
しかし18点差の場合、TDを奪われても、万が一TFPのキックを
防ぐ事が出来れば24点差で3ポゼッション差。
(でも実質は上にも書いた通り
4ポゼッション差で考える方が普通)
FGで3点を取られても21点差にしかならず、
3ポゼッション差は変わりません。
以上の事から、失点に関してちょっとだけですが寛容になれます。
それでも、失点する事が厳しい状況に追い込まれる事に
繋がるのは間違いないのですが。
しかし上のような考え方から、
「18点差の場合には出来る選択が21点差になると出来ない、」
という状況も生まれる事となります。
例えば時間が無くなってきた状況において……。
18点差だったら、オンサイドキックを失敗しても
FGの3点に抑えれば何とか大丈夫……
という事で、オンサイドキックの選択はしやすくなります。
しかし21点差では、オンサイドキックを失敗したら
FGでの3点の失点の可能性が増しますので、
オンサイドキックの選択しにくくなります。
(上で書きましたが、敵陣33ヤードまで進めばよいので)
という事で通常のキックを蹴らざるを得ない……
このように選択肢の幅が狭まってしまうのです。
・最後のプレイとなってしまった今週のプレイについて
194th終了時点で残りは20秒を切り、
エンドゾーンまで59ヤード(自陣41ヤード)という状況。
もし18点差のままでかつ、2ポイントが1回成功し
3点差の状況でこのシーンを迎えていたら……
勝負に「たら・れば」はありませんが、
このような状況になっていた時を考えます。
3点差であればFGで同点です。
上でも書きましたが、ムサシなら50ヤードのFGを成功させる
力を持っていますので、敵陣33ヤードぐらいまで進めればOKです。
ですからモン太は、FGが蹴られる位置まで進んだら
自らフィールド外へ出て時計を止め
同点FGを狙うという選択も出来る状況でした。
しかし実際には21点差にされていたので、この場面では7点差。
タッチダウンが必要な状況でした。
一休を転ばせ、セーフティをかわしたモン太。
もうディフェンスには選手が残っておらず、
そのまま一気にタッチダウンが狙える状況でした。
このような状況で10ヤード進む事は
通常のプレイから10ヤード進む事よりはるかに楽です。
ですから、一気にタッチダウンを狙うのは当然でした。
しかしヒル魔さんにとって、計算違いが阿含だったのですね。
ヒル魔さんの事を狡いと言っていましたが、
阿含の最後のプレイは憎たらしいほど理性的で、
しかも精神的にもダメージを与えるプレイだったと思います。